「GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩(よあるき)」開催レポート

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GYOEN NIGHT ART WALK

UPDATE : 2019.07.23

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イベント初日には、ライゾマティクスの齋藤さんとCVJ代表理事の井上智治さんによる記者会見が開かれました。そこで語られたのは、「GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩」に込めた思いと、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下東京2020大会)に向けた展望。会見で語られた、ふたりのコメントをどうぞ。

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東京2020大会に向けての運動体験を、ここならではのロケーションで。

「CVJとライゾマティクスが協働してさまざまな交渉をした結果、なんとか新宿御苑の夜間開放を実現することができました。そして、本当にたくさんの方が参加してくれました。公共空間ですばらしい展示を見たいというニーズが確実にあるとわかったことが、今回の大きな成果だと思います」

会見の冒頭、まずは井上さんからこんなあいさつが。実現に至るまでには、環境省、内閣官房など、関係各所とのさまざまな調整があったのだそうです。

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続いて齋藤さんが、今回のイベントを夜間のウォーキングとした理由を語りました。

「新宿御苑は59.3ヘクタールもの広さがあります。新宿の摩天楼が見えて、周りには建物がそれほどなくて、これだけ暗い場所が東京のど真ん中にあるというのは、私たち表現者からすると奇跡的。そして、せっかく東京2020大会の調査事業として行うなら、少しでも体を動かすことにつながればと思ったんです。運動に対する障壁をできるだけ低くしたいという考えが私の中にあって、ウォーキングをテーマにしました。そのため、光の中を『通り抜ける』ことを意識したつくりになっています。また、普通の散歩よりもう少し早いスピードで歩けるように、歩調を計算して音楽の速さを決めました。光と音で回遊を促す、ランドスケープインスタレーションとなっています」

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「公共の場の開放」に秘められた、未来への可能性とは。

齋藤さんいわく、「ふだん入れないところに入りたくなるのは、人間そのものがもっている欲求」。そこをインスタレーションで演出することが今回のイベントの骨子だと言います。また、今回のイベントは東京2020大会に向けたステップのひとつでもあり、スポーツの祭典であると同時に、文化のイベントであることを意識したと井上さん。

「オリンピック・パラリンピックに向けてこんなに面白いことがいろいろできるんだと、ワクワク感を感じてもらいたかったんです。また、東京2020大会では室内会場はほぼ埋まっていますから、屋外でどんなことができるのかを示す意味もありました。齋藤さんの提案が、屋外でみんなが参加できて、文化とスポーツがクロスする内容だったので素晴らしいなと思いました」

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ちなみに齋藤さんの最初の構想は今回のイベントとは少し異なり、近隣だけでなく全国を巻き込んだ壮大な内容でした。ただし第一回目ということもあり、現実的な規模に収まる内容になったのだそうです。齋藤さんとしては、新宿御苑の良さをまだまだ生かしきれていないと感じているそうで、この場所ならではの文脈をもっと絡めたかったという思いがあるのだそう。一方で、そこは今後の課題だと井上さんは言います。

「規制に縛られることなく公共空間が利用できると、すごく面白いことができる可能性が出てきます。東京2020大会とその先に向けて、東京はそういうことができる都市なんだというふうになればという考えで、いろいろな取り組みを進めています。今回は新宿御苑でしたが、皇居前広場、丸の内の行幸通りなど、それぞれの場所にそれぞれの良さがあって、そういった公共空間でアーティストが積極的に活動できる国にしていきたい。今回はその第一弾なんです」

そして、最後に齋藤さんが語ったのが、公共空間の活用という点においての、今回のイベントの意義。東京2020大会に向けてはもちろんのこと、日本の未来にとっても意味があるのだと語りました。

「私は、まだ使われたことがない場所でイベントをやってみたいし、そこにいろんな方に来てもらって、ハレを演出したい。それを子どもたちにも体験してもらえば、彼らの将来がより良くなる、選択肢がひとつ増えることにつながると思うんです。ところが規制緩和となると僕らのような表現者だけでは難しい。そこを、井上さんのように法律や条例に通じている人とともにやることで実現できるようになる。そういった互いにとっての共通言語ができたことが大きいですね。今回の実績が広がって、オセロのように公共空間がどんどん使えるようになっていってほしいと思っています」

 

  • 齋藤 精一

    クリエイティブ・ディレクター
    1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNY で活動を開始。その後ArnellGroupにてクリエティブとして活動し、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。その後フリーランスのクリエイティブとして活躍後、2006年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。2009年 より国内外の広告賞にて多数受賞。
    現在、株式会社ライゾマティクス代表取締役、京都精華大 学デザイン学科非常勤講師。2013年D&AD Digital Design部門審査員、2014年カンヌ国際広告賞Branded Content and Entertainment部門審査員。2015年ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト2015にてメディアアートディレクター。グッドデザイン賞2015-2017審査員。2018年グッドデザイン賞審査委員副委員長。2020年ドバイ万博日本館クリエイティブアドバイザー。