CVJ Workplace Art Project アート×ビジネスの可能性 -ゼロからイチを生み出す協業の可能性を探る!-

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CVJ Workplace Art Project

UPDATE : 2018.12.15

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カルチャー・ヴィジョン・ジャパンは、アートと企業の出会いが企業の創造力を高めると共に、日本のアート市場の拡大につながるとの考えから、アーティストが企業活動の場で作品を展示・発表する機会を作り、それらを販売することにより、アーティストが自立的に活動できる仕組みを広げるべくCVJ Workplace Art Projectを進めています。

第一弾としてヤフー株式会社の協力を得て、オフィス・ カフェテリア・LODGE(オープンコラボレーションスペース)を会場にアート展示・アーティストの滞在制作を実施するとともに、関連イベントとしてトークショーを行いました。

ゲストには、メディアアートに関する世界的なイベントであるArs Electronica Festival 2018でともに栄誉賞を受賞する一方で、ヤフーにお勤めだった経験のある市原えつこさん、会社員としてもご活躍の経験がある後藤映則さんを迎えました。ヤフー株式会社でメディアアートの有志活動を進める宮内俊樹さんがモデレータとなり、お二人の「アート×ビジネスの可能性」に関する考えを探ったトークの様子をお届けします。

アート作品でオフィスに刺激を

宮内:お二人は作品を買ったり見に行ったりされるんですか?

市原:よく美術館を観に行って勉強はしているんですが、意外と作品は買っていなかったです。いわゆる工芸的な日常的に使えるものは買ったことがありますが、1点ものの芸術作品を購入したことはないですね。現代アートは手の届かないイメージがあって、なかなか買い求めていなかったんですが、CVJ Workplace Art Projectで展示されている作品を拝見して意外と買えるのでは?と思いました。手の届く、お求めやすいお値段のものも沢山あって。

宮内:弊社の中で飾ってあって本当に買えるんだっていうのを自分も実感しました。

市原:画廊の中に入るのは緊張しますしね。

後藤:慣れていないと入りにくい雰囲気がありますよね。

市原:だからオープンなところで仕事をしながら鑑賞できて、意外とお値段はらないのねって相場が解るのは良いですね。大きい企業にずっと在籍していると価値観がやや一様になりやすい面もあるので、こういう異分野のものが日常の仕事空間に入ってくるのって良いなと思います。

後藤:どうしてもビジネスって最終的に評価されるのは数字で、そこばっかり行くと偏って盲目的になってしまうのかなって思うので、そこに、なんかわからないけれど、感情が揺さぶられるというか、脳みそがリラックスできるとか気持ちよくなるとかの感覚が組み合わさると面白い発見や発想につながるかもしれませんよね。

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アーティストと企業のコラボレーションの難しさ・可能性

宮内:企業と協業した経験で、困ったことはありますか?

後藤:僕の作品の場合、「見た目が綺麗」「様々なテーマを取り込みやすい」という特徴から、(商業的な活用にも適していると見えるようで)お金になるプロジェクトにしようという事をすごく言われます。それはそれで自信は生まれますけど、作品の本質的なところ、なんでそれを作っているのかはあまりきかれずに、ただ「これが綺麗だから」って言われてしまうと残念に思ってしまう時があります…。あとは、外部の人に、勝手に作品のコンセプトや技術を使ったコピーを作ろうとされてしまったり。

宮内:対話の余地があるというか、対話をもっとしないといけない感じですね。

後藤:そうですね。普段から全部1人でやっているので、そこまでは手が回らないですね。その意味でマネージメントがいない問題は凄く大きいかもしれないですね。

市原:私はヤフーでの在籍経験があったおかげで、比較的企業の中の人の気持ちを想像しやすくなった恩恵がある気はします。とはいえ、作品を作るときって初め突飛なアイデアから始まったりするので、会社の意思決定者にわかるように価値を翻訳するのが制作の初期には難しい。49日死者と一緒に過ごしているロボットもそうですが、アーティストが作る物って、そもそも善悪や倫理的にギリギリのところが(敢えて)あったり、企画の段階の初めは自分すら完成形がどうなるのかわからないところがあって。初めから意思決定者や決裁者に直接お話しして、「いいねいいね」ってお互いに熱量を共有するといい形で始まりやすいかもしれません。

宮内:最近ビジネスにおいて、デザイン思考の延長でアート思考が話題になっていますね。この辺りは勉強されたり、興味を持たれていますか?

市原:最近「アートシンキングとは何か」というテーマでセミナー登壇をしてほしいという企業のオファーが増えてきました。便利なものや誰かの役に立つものを作るのとは違う、そもそも何も前提がなくて新しい価値観を作らなければならないときは、アートシンキング的な思考法はとても使えると思っています。自分のように、作品自体を売りにくいタイプのアーティストにとっては、こういったセミナーが経済的な自立の一助にもなります。

アーティストにとって「作品を売る」ということ

宮内:作品を制作するときに、スポンサーサイドや「売る」ということを考えますか?

後藤:僕はあまり売る事を考えて作ったことはないです。売れるとは思ってなかったです。

市原:幸せなケースですね。

後藤:逆にすごくびっくりして、これ売れるんだって。個人の方が買いたいってケースもありますし、美術館や博物館からも依頼がありました。
あとスポンサーという意味では、3Dプリンターを使っているんですが、プリント代がすごく高いんですね。たとえばアメリカの展覧会で展示したときは、制作のための賞金が100万円出たのですが、3Dプリンターの金額を見積ったらなんと約2,000万円だったんです。

一同:(笑)

後藤:桁が違うと。全然実現できないと思って。でもやることは決定したし、自らスポンサー捕まえにいかなきゃ駄目だなと思って、某有名プリンティング会社に正面から「実はこういう事があって」って行ったんです。僕は作品を作りたいし見たかったので、ちゃんとスポンサーの名前も入れるし、情報を拡散しますよっていうことも先方と約束して。向こうのメリットと僕のメリットが合致して、予算はかなり削りましたが、納得いく形で展示はできました。

宮内:普段お仕事でやられているビジネス感が生きてますね。

宮内:日本でも芸術起業というワードが流行ったこともありますが、そういうところから受けた影響はありますか?

市原:実は高校生の頃、美大に行くか迷っていた時期に読んだ村上隆さんの著書「芸術起業論」にすごく影響を受けました。そこに美術業界の閉鎖体質・癒着体質が書かれていたのがボディブローのような衝撃で、結果的に進路を美大ではない大学へ変更した理由にもなりました。

宮内:それで美大に行かずに社会人になられたんですね。後藤さんはどうですか?

後藤:僕は逆にあまりそこまで影響を受けていないかもしれません…。もちろん芸術起業論も読みました。でも最初は海外からの方がお話が多かったので、そのまま日本じゃなくても海外でやっていこうという感じで進みましたね。

宮内:海外の科学館で展示したいというオファーもあったそうですね。

後藤:はい。ただその時ちょっと困ったのが、作品を置く予定の場所をきいたら「びっくりイリュージョンコーナー」って(笑)ちょっと違うなあ…って。でもそういうのに限って金額の桁が違うんですよね。科学系の予算って凄いんだなと思いました。

市原:魂を売るかどうかの究極の選択ですね……(笑)。

後藤:結局やらなかったですけどね(笑)。

海外で感じた「アートの位置づけ」 日本との違い

宮内:お二人とも海外のコンペティションへ行ってますね。海外の人のアートや考え方はすごく刺激になると思いますが、何か発見はありましたか?

市原:日本のアーティストだと、縦割りというか、メディアアーティストだとメディアアートしかやらないのが当たり前と思っていたんですが、海外は一人の作家が媒体を横断しまくっているのが印象的でした。日本より女性アーティストの活躍が目立ったり、色々と発見があって非常に勇気づけられました。

後藤:海外で展示していて面白いなと思ったのが、通りすがりのおばちゃんとかもガンガン意見を言ったり、質問してくるんです。これは何でこうしたんだ、何がモチーフなんだって。日本で展示するとあまり言われない。思ってるかもしれないんですけど、言いにくい雰囲気なのかなって。海外はもっとフラットな空気が流れていて、作品に対しての意見を積極的に言ってきてくれるのが、うれしかったですね。

「誰の」「どのような」欲求に応えるかが、アートとビジネスの違い?

宮内:ずばり、ビジネスとアーティストの共通項・違いはどの辺りにあると思われますか。

後藤:僕の場合、共通点はどちらも実現したいという「欲求」みたいなところからスタートしていることですかね。アートなら「描いてみたい」「見てみたい」という欲求、ビジネスも「こういう事で社会貢献していきたい」「作った商品をみんな持っている姿が見たい」という欲求。完成形は違うかもしれないですが、意外と根源的に求めているものは近い部分があるのかなと思いますね。

市原:自分の場合は、アーティストの仕事・作品の特徴としては「クライアントが自分」と昔から思っていて。一般的な会社は、ある一定数の顧客層を想定してそれに向けて製品なりサービスなりを作ることが多いと思うのですが、私のアーティスト活動では、ただ「自分がやりたい、見てみたい」という動機を貫いています。一方、意外に使っているスキルセットは共通していて、アーティストって自分で営業して広報も経理も担当して、企画を立てて実行してマネジメントして、全て1人で兼任する1人広告代理店状態だなと感じることがあります。

宮内:会社員時代に培ったものもあるわけですか?

市原:そうかもしれないですね。

 

  • 後藤 映則

    1984年岐阜県生まれ、アーティスト。武蔵野美術大学卒業。
    代表作に時間の彫刻「toki-」シリーズ。近年の主な展覧会にArs Electronica Festival 2018やTHE ドラえもん展 TOKYOなど。

  • 市原 えつこ

    メディアアーティスト。
    日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。第20回文化庁メディア芸術祭で優秀賞、Prix Ars Electronicaで栄誉賞を受賞。