「GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩(よあるき)」開催レポート

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GYOEN NIGHT ART WALK

UPDATE : 2019.07.23

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2018年10月12・13日、新宿御苑で「GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩」と題したイベントを開催しました。これは、新宿御苑に光と音のインスタレーションを設置し、夜間のウォーキングを楽しみながら苑内を回遊するというもの。齋藤精一さん率いるライゾマティクスが空間演出を手がけ、カルチャー・ヴィジョン・ジャパン(以下CVJ)と共催した“OPEN PARKプロジェクト”です。当日のイベントの様子をお届けします。

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初の夜間開放イベントに訪れた、6,000人以上の参加者。

イベントがスタートしたのは、閉園後、日が暮れてあたりが暗くなった18時。通常は立ち入ることができない時間帯に門が開かれ、事前登録制で集まったたくさんの参加者が苑内の受付に並びました。そして受付から少し進むと、大木戸休憩所付近で、後藤映則さんや藤元翔平さん、Ryo kishiさんら若手アーティストの作品展示と、車いすロードレースをVRで体験できる「CYBER WHEEL」の試乗会が行われました。これら関連プログラムが、今回のイベントのスタート。

この作品展示ゾーンを抜けてしばらく夜の苑内を進むと、芝生が広がるフランス式整形庭園に出ます。そにでは「正しい歩き方レッスン」として、日本姿勢と歩き方協会の講師がウォーキング方法のレクチャーが行われていました。ここからウォーキングコースが始まり、途中に設けられた7つのインスタレーションを楽しみながら、全長1.7kmのコースを歩いていきます。ちなみに参加者の数は、2日間で6,000人以上。多くの方が、このとき限りの特別な体験を楽しみました。

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色とりどりの光に導かれて、夜の新宿御苑の中へ。

スタート直後、参加者をまず出迎えるのが「induction lights」。道路沿いの光が100メートル以上にわたって延び、参加者の姿を照らします。光の色が赤、白、青、ピンク……と一定の時間で鮮やかに変わり、またテンポのいい音楽も相まって、これからのコースへの期待が高まるインスタレーションです。斎藤さんいわく「イメージは滑走路。最初に歩くモチベーションを高めようと考えました」とのこと。

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“光の道路”が終わると、少し間をおいて、今度は“光のゲート”が出現。一定の間隔で連続して設置されたゲートはまるで光のトンネルのようで、「The Warp」という作品名のとおり、まるでワープしているかのような感覚が味わえます。このインスタレーションは、ゲートを次々とくぐることで前に進みたくなる効果を狙ったもの。また、ここから次の作品までは少し間が空いており、夜の新宿御苑ならではの景色や虫の音などを感じられるゾーンが設けられました。

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多彩な仕掛けが、新宿御苑を異空間に変える。

しばらく歩みを進めると、地上から空に向かって伸びるビームが見えてきます。これは「Entrance of forest」、その名のとおり、生い茂る木々の中へとムービングライトが誘うインスタレーション。入口付近では道の両端からランダムに動く光線が中空に放射され、さらに進むと、今度は頭上を水平にレーザー光線が走ります。「異空間をつくりたかった」という意図のとおり、頭上一面を光が一定時間覆う演出は、とても公園内とは思えない非日常的な光景。

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続いて設けられたのは「Black light」という実験的な作品。ブラックライトが空間を照らすことで、通路の両脇に張られた糸が反応して光る仕掛けです。この中を歩くと視界がもやに包まれたようになり、道行く人の白い服や歯などが光って見える、新鮮な体験が味わえるというもの。

道の先から照らされたオレンジ色のライトに向かって歩く「Run to the Light」を挟んで、次に現れたのは水面にレーザーで文字を映し出すインスタレーション「Projection on Water」。「GYOEN」「NIGHT」「ART」「WALK」の文字が次々と映し出されては消え、参加者の皆さんの目を引いていました。

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夜の新宿御苑の光と闇を、まるごと体験。

今回展示された7つの作品の中で、もっとも壮大な作品が「The deep forest」。コースの両脇には背の高い木々が並び、霧状のスモークが焚かれて、まるで童話の森の中のような雰囲気。そこにさまざまな色の光がムービングライトで照射され、幻想的な世界が広がります。このイベントのフィナーレともいえる壮大な景色には、多くの参加者が感嘆の声を挙げていました。

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そして、コースの最後に用意されていたのは、一転して暗闇が強調された「Run to the city」。光が最低限に抑えられた夜の新宿御苑そのものの中を、アップテンポの音楽を頼りに歩くというインスタレーションです。その先にある広場がゴールで、参加者にはウォーキング後にうれしいミネラルウォーターが配られました。

齋藤さんによれば、今回の作品のコンセプトは、「光の横をすり抜ける」「光の中をくぐる」「光をめがけて歩く」という、近景・中景・遠景の3つのパターンを体験することで、歩くことのモチベーションとするというもの。そしてさらに、都心にあるとは思えない“大きな森”そのものを感じてもらおうと考えたのだそう。その狙いどおり、参加者はインスタレーションに導かれながら、夜の新宿御苑という通常は味わえないシチュエーションを楽しんでいました。

東京2020大会に向けての運動体験を、ここならではのロケーションで。

  • 齋藤 精一

    クリエイティブ・ディレクター
    1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNY で活動を開始。その後ArnellGroupにてクリエティブとして活動し、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。その後フリーランスのクリエイティブとして活躍後、2006年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。2009年 より国内外の広告賞にて多数受賞。
    現在、株式会社ライゾマティクス代表取締役、京都精華大 学デザイン学科非常勤講師。2013年D&AD Digital Design部門審査員、2014年カンヌ国際広告賞Branded Content and Entertainment部門審査員。2015年ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト2015にてメディアアートディレクター。グッドデザイン賞2015-2017審査員。2018年グッドデザイン賞審査委員副委員長。2020年ドバイ万博日本館クリエイティブアドバイザー。