企業向けセミナー「2020年、その先に向けた文化プログラム」

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企業向けセミナー

UPDATE : 2017.12.15

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今回のセミナーはカルチャー・ヴィジョン・ジャパンでは初となる一般参加形式、総勢133名の参加者が参加しました。講演の合間に行われた質疑応答では活発な質問が飛び交うなど、会場となった都市センターホテルのコスモスホールは静かな熱気に包まれました。布村さん、平田さんに続いて、東京都生活文化局文化振興部長の鳥田さん、ライゾマティクスの齋藤さんの講演の様子をどうぞ。

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オリンピック・パラリンピックの先まで続く、日本文化の質の高まりを。
鳥田浩平さん「2020年までの東京文化プログラムの展開プラン」

鳥田さんは、東京都の文化振興を担う「東京都生活文化局」の文化振興部で部長を務めています。講演の内容は、東京都が進めている文化プログラムについて。「布村さんと平田さんが話した内容と比べると、より実務的な内容になります」と鳥田さん。

「2015年3月31日、東京都は『東京文化ビジョン』というものをつくりました。詳しくはウェブサイト(http://www.metro.tokyo.jp/INET/KEIKAKU/2015/03/70p3v500.htm)で公開している資料を見ていただければと思いますが、2020年、その先も続いていく文化はどうあるべきかを表したものです。また、これを受けて文化プログラムに特化した基本的考え方をつくり、どういうレガシーが必要になるのかということを策定しました。それの手順を表にまとめ、東京芸術文化評議会で具体的にどう動かしていくかという検討を始めました。それが『2020年までの東京文化プログラムの展開プラン』です」

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その内容は、2020年に向けた盛り上がりをつくり、そのあともレガシーとして文化の質を高め、さらには量も十分に出していこうというもの。「東京の文化振興の基盤となるプログラム」「民間等の助成事業」「新たに取り組む特別なプログラム」「文化プログラム全体を盛り上げる取組」という4つのから成り立っています。

「まず『東京の文化振興の基礎となるプログラム』について。東京都の8つの文化施設を使います。たとえば江戸東京博物館には年間約140万人が来場して、そのうち外国人は2割くらい。ここでの展示を充実させ、日本の伝統芸能パフォーマンスなども行っていきます。池袋の東京芸術劇場では今年から東京芸術祭を始めましたし、施設外では野田秀樹さんが総合監修する『東京キャラバン』なども行いました」

これら東京都が主催する取り組みとは別に、実験的にスタートしたのが「民間等に対する助成事業」。2016年4月に新設した「東京文化プログラム助成:気運醸成プロジェクト支援」では、楳図かずおさん原作の「わたしは真悟」のミュージカルが採択されました。2017年度からは「市民創造文化活動支援」「未来提案型プロジェクト支援」「海外発文化プロジェクト支援」もスタート。4億円の予算を見込んでいるそうです。

「『新たに取り組む特別なプログラム』は、東京都が学生やアーティストからアイデアをいただいて一緒にやっていくプロジェクトです。私たちだけでは考えていくには限界がありますし、アイデア次第で可能性が広がります。たとえば駅や民間ビルの一部分を借りてステージをつくったり、東京都の姉妹友好都市で文化を発表したり。まだ漠然としていますが、こういったことを考えていきます」

そして「文化プログラム全体を盛り上げる取組」は、組織委員会の布村さんの講演でも語られた「東京2020参画プログラム」の認証マークを活用するなどして、2020年に向けた機運を醸成していくというもの。

「助成事業にしろ、外部の方からアイデアをいただく事業にしろ、民間のアーティストや芸術団体なしには成し得ません。これら4層構造を通じて文化プログラムを盛り上げて、1964年の東京オリンピックを超えるレガシーを次世代に残していきたいと思っています。1964年はハード中心のレガシーでしたが、2020年はより成熟した社会として、ソフトの力を将来に残していく。それが一番のレガシーとなるのではないかと思っています」

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文化の担い手と行政が量子論的に動くために必要な「共通言語」とは。
齋藤精一さん「2020年まで、その先にクリエイター・アーティストがやるべきこと」

質疑応答を挟んで、最後に登壇したのは齋藤精一さん。カルチャー・ヴィジョン・ジャパンのアドバイザーであり、インタラクティブな広告プロジェクトや先鋭的なメディアアート作品で注目されるクリエイター集団・ライゾマティクスの代表でもあります。

「僕からは、つくり手の立場でのお話を。僕は2006年にライゾマティクスをつくり、最初はアーティスト集団としてスタートしましたが、今はアートとコマーシャルの2つの軸でやっています。この2つは使っている脳がまったく違っていて、アートは社会的問題に対して自分たちの意見を発信、コマーシャルはソリューションをつくって企業価値を引き上げるようなものです。そしてこれまで、コマーシャルで稼いではアートにつぎこむということを、年輪のように繰り返してきました。先ほど、文化の産業化や助成の話がありましたが、今はアーティストへのサポートが出てきているので、若手が羨ましい。僕らはずいぶん苦労してきたんです(笑)」

この日はパリから帰国したばかりだという齋藤さん。海外で日本がどのように見られているかをあらためて実感したそうです。

「海外のどこの都市にいっても、日本のキーワードはイノベーションとかテクノロジーだと言われます。かつては『AIBOが野良犬になって東京を徘徊しているんじゃないか』なんて言われたり(笑)、海外からは日本に未来があると見られているんです。だから、コマーシャルであれアートであれ、僕らのプロジェクトは実験的で、見たことがないものにこだわっています。とはいえ、テクノロジーのショーケースをやることにあまり意味はない。プロジェクターを1000台使って大規模なプロジェクトを、なんてやり方はもう3年くらい前に終わっています。今は、その中で何を表現するか、テクノロジーをちゃんと道具として使っているかが大切です」

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KDDI (「驚きを、常識に。FULL CONTROL TOKYO」au by KDDI / 2012 (c) au by KDDI)

また、「難しいことをやっていても、最終的には楽しいとかかっこいいとか形容詞で表現できることが大事」だと齋藤さんは考えていて、ベースとしているのはあくまでエンターテインメント。たとえばある企業のCMでは、渋谷のスクランブル交差点でパーティするという状況をCGで描きました。

「使い古された言葉ですが、『ハック』、つまり疑ってかかるということを大切にしています。道路を封鎖してイベントをやりたいのにできないのはなんでだろうって。代理店に『無理ですよ』と言われるようなことを、『いやいや絶対にできるよ』と言ってやってきました。十中八九無理なんですけど、1パーセントくらいは可能性があるものです。こんなふうに、アーティストは可能・不可能を超越してアイデアを出すことが多いですが、行政は下から積み上げて考えていきますよね。これからもその構造は変わらないと思いますが、アーティストはどうすれば可能になるのかを勉強しなければいけないし、行政はアーティストの考え方を把握して規制を緩和していくことが必要。互いに勉強していくことが、共通言語になるのだと思います」

そのためにも、必要なのは、2020年までの間に、所属している団体を超えて一人ひとりが同じマインドをもつこと。

「世の中の関係は、超複雑系でできています。アーティストがいたり行政がいたり、それぞれのやりたいことや意見に複雑な相関関係がある。今の時代はそれが量子論的な構造になっていて、一人ひとりの意見を無視できない状況です。僕がよくその例えとしているのが、小さな魚が集まって巨大な魚の形をつくる『スイミー』の話。これからは、互いに共通言語をもって、一人ひとりが組織を超えていっせいに大きな魚をつくれる状態にしないといけないと思う。次の2020年は、街、都市、国、すべてが舞台になります。その状況をつくるために、アーティストも行政も、一体となっていく必要があるんです」

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  • 布村 幸彦

    富山市出身。富山高校を経て、東京大学法部卒。1978年文部省入省。文部科学省初等中等教育局教育課長、大臣官房人事課長を経て、2005年大臣官房審議官(初等中等教育局担当)。2009年スポーツ・青少年局長、初等中等教育局長、高等教育局長を経て、2014年1月より現職。

  • 平田 竹男

    1960年大阪生まれ。横浜国立大学経営学部卒業、ハーバード大学 J.F.ケネディスクール行政学修士、東京大学工学博士。1982年、通商産業省(現経済産業省)入省。1991年には外務省在ブラジル国日本国大使館一等書記官を務める。1995年大臣官房 総務課 法令審査委員を務め、1997年通商政策局、2000年資源エネルギー庁を経て、2002年財団法人日本サッカー協会 専務理事に就任し、日韓ワールドカップの開催に貢献した。2006年から早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科教授に就任。2013年より内閣官房参与、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局長を務める。

  • 鳥田 浩平

    昭和60年 東京都入庁
    平成13年 目黒清掃事務所長
    平成16年 総務局勤労部副参事(都職員の勤務条件の制度設計、労使交渉47)
    平成18年 生活文化局私学行政課長(私立学校の認可、指導)
    平成19年 生活文化スポーツ局スポーツ振興課長(スポーツ事業、体育施設の管理)
    平成22年 生活文化スポーツ局担当部長(局の総務、議会担当)
    平成23年 東京マラソン財団事務次長(東京マラソンの企画・運営)
    平成24年 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会事務次長(オリンピック招致総括)
    平成26年 生活文化局文化振興部長(文化事業、文化施設の管理)

  • 齋藤 精一

    1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。その後ArnellGroupにてクリエティブとして活動し、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。その後フリーランスのクリエイティブとして活躍後、2006年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。2009年-2014年国内外の広告賞にて多数受賞。現在、株式会社ライゾマティクス代表取締役、京都精華大学デザイン学科非常勤講師。2013年D&AD Digital Design部門審査員、2014年カンヌ国際広告賞Branded Content and Entertainment部門審査員。2015年ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト2015にてメディアアートディレクター。グッドデザイン賞2015-2016審査員。