企業向けセミナー「2020年、その先に向けた文化プログラム」

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企業向けセミナー

UPDATE : 2017.12.15

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_MTA00592017年3月31日、千代田区の都市センターホテルにおいて、カルチャー・ヴィジョン・ジャパン主催による企業向けセミナーを開催しました。講師はオリンピック2020東京大会にさまざまな形で関わる4人の識者。行政の立場から布村幸彦さん、平田竹男さん、鳥田浩平さんの3名がオリンピックに関連した文化プログラムについて、そしてライゾマティクスの齋藤精一さんがクリエイターの立場から講演を行いました。それぞれが語る、2020年とその先に向けた考えとは?

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東京2020大会を、文化面にも広がりのあるものにするために。
布村幸彦さん「東京2020文化オリンピアードについて」

最初の公演は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の副事務総長の布村幸彦さんによる「東京2020文化オリンピアードについて」。「文化オリンピアード」とは、オリンピック・パラリンピックの開催国にオリンピック憲章で義務付けられている、前大会の終了後から自国開催までの4年間にわたり行う文化・芸術のプログラムのこと。1912年ストックホルム大会から始まり、かつては競技芸術や芸術展示として行われ、2012年ロンドン大会では大規模な文化プログラムがイギリス全土で行われました。

「組織委員会では、最初に東京オリンピック・パラリンピックを“広がりのある大会”にしようと話し合いました。スポーツだけでなく、文化やまちづくりにも波及するものに。開催後にもレガシーを残して時間的にも広がりをもたせ、東京にとどまらず、日本、アジアへと地域的にも広がりをもたせたい。文化オリンピアードはそのための有効な手段だと考えました。そして、日本における文化オリンピアードを支援するために、『東京2020参画プログラム』を策定して、現在展開しています」

東京2020参画プログラムは、布村さんいわく「オリンピック・パラリンピックは参加することに意義がある」という言葉を体現したもの。スポーツだけでなく、「文化オリンピアード」につながる文化芸術活動、バリアフリーをはじめとしたまちづくり、水素自動車などを活用した持続可能性など、多岐にわたるテーマを設定して、できるだけ多くの人の東京2020大会への参加を促すもの。各省庁やスポンサーの取り組みを公認事業として位置づける「公認プログラム」と、非営利団体の取り組みをサポートする「応援プログラム」の2つの枠組みがあります。

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「2017年3月末で認証は約700件、参加人数は約100万人と、いいスタートを切ることができました。2017年度からは『応援プログラム』の対象をすべての非営利団体に拡大して本格的に実施していきます。さらに、2020年の4月頃から、東京2020文化オリンピアードの集大成として『東京2020フェスティバル』を開催し、盛り上げを最大化していきます。その段階では、組織委員会としても文化オリンピアードの核となる取り組みができたらいいと考えています」

文化オリンピアードは、リオ五輪後の2016年10月からスタートして、2017年3月時点で126件の「公認文化オリンピアード」と56件の「応援文化オリンピアード」が認証されています。たとえば、2016年10月に六本木ヒルズで開催された「東京キャラバン in 六本木」。これは、劇作家・演出家・役者の野田秀樹さん発案による、多種多様なアーティストが出会い“文化混流”することで新しい表現を生むという公認プログラムです。そのほかにもさまざまな取り組みが、日本や海外で行われています。

「ロンドン大会では多くの予算を使って,文化オリンピアードを成功させました。先日、そのディレクターに成功の秘訣をうかがったところ『芸術家を信じて任せること』とおっしゃっていました。そういった意味でも、東京2020文化オリンピアードでは、歴史や伝統など文化的な魅力はもちろん、現代的なポップカルチャーやアニメーションも知ってもらう、世界の方々に魅力を感じていただく。東京2020フェスティバルでおおいに盛り上がって、開会式を迎えたいと思っています」

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日本を文化でリブランディングする手法自体がレガシーになる。
平田竹男さん「beyond2020 プログラムの展開」

「先ほど、組織委員会の布村さんから素晴らしい説明がありました。文化オリンピアードを補完するためにも、私たち内閣官房オリパラ事務局にもやらなければいけないことがあります」と語り始めたのは、2016年6月24日に行った第10回カルチャー・ヴィジョン・ミーティングでも講師を務めた平田竹男さん。内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局長として、政府と東京都が一体となって日本文化を世界に発信していく「beyond2020 文化プログラム」を推進しています。

「2020年のオリンピック・パラリンピックに関わり始めて3年ほどが経ちます。当時は、海外からの観光客は1000万人いくかどうかというところだったのが、今では2000万人を軽く超え、2020年までに4000万人に増やしていこうとしています。道路や湾岸の整備、航空の発着便数増加などのほか、テロ対策、バリアフリー整備、さらに学習指導要領の改正や食文化の発信まで、2020年という締め切りをもって、東京と日本をショーケースとして発信するということをやってきました。」

さまざまな取り組みを行う中で、特に注力しているのが「文化」の取り組みです。文化関係省庁等連絡会議の座長として文化庁やクールジャパン事務局を取りまとめ、2017年3月には文化経済戦略特別チームのチーム長に就任し、文化の産業化や文化プログラムの推進に取り組んでいます。

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「よく『レガシーの創出』といわれていますが、その前に現在の文化政策を整えようとしています。私としては持続的に成長していくベースがないことが気がかりです。ベースがなければレガシーはない、そう感じています。そのために、文化を利用する人、文化そのものを手がけている人を結びつける仕事をしたいと思ってきました。たとえば、企業の文化活動と公的主体をどう組み合わせるかが大事ではないか。文化を見る・買う人といったデマンドサイドのカルティベートと、サプライサイドのプロモーションを組み合わせていかなくてはいけないと思っています」

具体的には、オリンピックが終わる8月9日からパラリンピックが始まる8月25日までの間に「大相撲beyond2020場所」を開催したり、迎賓館や皇居、御所を開放したり。さらに、屋外広告物に関わる条例や道路使用許可プロセス、ビザ発給要件を緩和するなどを通した文化芸術活動のサポートも行っています。

「今年の一番の課題は、2020年に行う50年に1度くらいの大規模な案件を組成することです。2020年まで、そしてその先も続く『カルチャーカレンダー』を制作し、発信していく。『beyond2020プログラム』の募集も先日開始しました。文化で日本をブランディングし直していくということをやっていますが、この行政のやり方を残すこと自体がレガシーになる、そう思っています」

オリンピック・パラリンピックの先まで続く、日本文化の質の高まりを。

  • 布村 幸彦

    富山市出身。富山高校を経て、東京大学法部卒。1978年文部省入省。文部科学省初等中等教育局教育課長、大臣官房人事課長を経て、2005年大臣官房審議官(初等中等教育局担当)。2009年スポーツ・青少年局長、初等中等教育局長、高等教育局長を経て、2014年1月より現職。

  • 平田 竹男

    1960年大阪生まれ。横浜国立大学経営学部卒業、ハーバード大学 J.F.ケネディスクール行政学修士、東京大学工学博士。1982年、通商産業省(現経済産業省)入省。1991年には外務省在ブラジル国日本国大使館一等書記官を務める。1995年大臣官房 総務課 法令審査委員を務め、1997年通商政策局、2000年資源エネルギー庁を経て、2002年財団法人日本サッカー協会 専務理事に就任し、日韓ワールドカップの開催に貢献した。2006年から早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科教授に就任。2013年より内閣官房参与、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局長を務める。

  • 鳥田 浩平

    昭和60年 東京都入庁
    平成13年 目黒清掃事務所長
    平成16年 総務局勤労部副参事(都職員の勤務条件の制度設計、労使交渉47)
    平成18年 生活文化局私学行政課長(私立学校の認可、指導)
    平成19年 生活文化スポーツ局スポーツ振興課長(スポーツ事業、体育施設の管理)
    平成22年 生活文化スポーツ局担当部長(局の総務、議会担当)
    平成23年 東京マラソン財団事務次長(東京マラソンの企画・運営)
    平成24年 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会事務次長(オリンピック招致総括)
    平成26年 生活文化局文化振興部長(文化事業、文化施設の管理)

  • 齋藤 精一

    1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。その後ArnellGroupにてクリエティブとして活動し、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。その後フリーランスのクリエイティブとして活躍後、2006年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。2009年-2014年国内外の広告賞にて多数受賞。現在、株式会社ライゾマティクス代表取締役、京都精華大学デザイン学科非常勤講師。2013年D&AD Digital Design部門審査員、2014年カンヌ国際広告賞Branded Content and Entertainment部門審査員。2015年ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト2015にてメディアアートディレクター。グッドデザイン賞2015-2016審査員。