第10回 第1部「beyond2020 文化プログラムの展開」講演会

2016624日(金)の「カルチャー・ヴィジョン・ミーティング」において、東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部事務局の事務局長を務める平田竹男さんによる講演が開催されました。テーマは、2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機に文化事業の推進・発展を図る施策「beyond2020 文化プログラムの展開」について。グローバル社会の中で日本文化を広く世界にアピールするため、また私たち自身が自国の文化を再認識するために、今向き合うべきことを語りました。

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「文化」を発展の契機とする、4年間の逆算プログラム。

これまで、Jリーグの発足や2002年日韓ワールドカップ招致など、スポーツに関するさまざまな施策に携わってきた平田さん。現在事務局長を務める東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部事務局では、2020年東京大会に向けて「文化」を大きな施策の柱に据えていくことを考えていると言います。「beyond2020プログラム」とは、2020年以降を見据え、政府と東京都が一体となって展開する、日本文化を世界に発信していく一大事業。

「オリンピック・パラリンピックの東京開催は、2013年にブエノスアイレスで行われたIOC総会で決定しました。以来、2020年をゴールとして、逆算で仕事を達成しようという動きが加速しています。これはいわば締め切り効果。バリアフリー、多言語対応、暑さ対策、インフラ、観光、テクノロジー、さまざまな業界で締め切り効果が働いています。我々はその中に、ぜひとも『文化』を大きな柱として入れたい。その理由は、2020年以降も続くこの発展の機運を、文化がさらに醸成するであろうから。そして、文化に関わる方々にも、この動きを利用して大きく飛躍していただきたいのです」

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オリンピックにおける文化の位置づけは、1896年の第1回アテネ大会以来、時代によって変化し続けてきました。文化プログラムとしての多彩な行事が行われるようになったのは1992年のバルセロナ大会以降。2012年のロンドン大会では、国全体でタイミングを合わせて、あらゆる文化・芸術活動を集結させました。それはまさに、新しい文化プログラムの幕開けを感じさせるものだったと平田さん。

「ロンドンを踏まえ、ロンドンを超えたいと考えています。この4年間の逆算プログラム『beyond2020』を実行するには、アーティストはもちろん、公的機関、NPO、企業、すべてと連携して総括し、統一感のあるブランディングをしていく必要がある。そこで、まずは認証マークをつくります。これによって、あらゆる主体の取り組みが加速し、バリアフリー対応や多言語対応などもさらに進めてもらいたい。また、国内外の日本人が自国の文化を知るために修学旅行や企業研修などの文化教育を後押しし、日本の文化資源を観光に生かしていく。そのためには、デマンドサイド、サプライサイドともに、構造改革をしていく必要があるでしょう」


日本を世界に発信するためのツール、カルチャーカレンダー。

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オリンピック・パラリンピックは、世界中が4年に1度の盛り上がりを見せる、一種の「お祭り」。ただし「beyond2020」には、そのときだけで終わらせず、文化活動の持続的な成長を目指すという考えがベースにあります。

「オリンピック後の継続・拡大には、文化を本業として活動する企業、営利活動を通じて文化発信を行う企業とうまく連携していくことが必要だと思っています。入場料、スポンサー収入、メディア収入、あるいはグッズ展開という体系づくりを支援するのもそのひとつ。また、道路使用許可プロセスの簡素化、アーティストへのビザ発給要件の緩和、クラブカルチャーを守るための風営法改正など、さまざまな規制緩和をやっていきます」

さらに、世界中の注目が集まるチャンスを最大限に生かすため、オリパラ事務局がつくろうとしているのが2020年に向けた「カルチャーカレンダー」。リオから東京へ、4年後とそれ以降を見据え、毎年何をするのかを整理し、世界に発信していくというものです。

「美術館、博物館、寺社仏閣において、国宝などふだんは見られないものをどのようにして見せるかを検討しています。すでに決定しているものとしては、迎賓館、皇居、御所、スーパーカミオカンデを一般に公開します。こういった期間限定のイベントはオリンピックと並ぶ訪日の目玉になり得ます。もちろん、お祭りとして盛り上げるために、2020年には特別なことも行っていきます。たとえばオリンピックとパラリンピックの間の2週間ほどで、大相撲オリパラ場所をやってみる。所属事務所を越えてアーティストが共作・共演するのもいい。100年に1度というレベルの、特別なものを構成し、支援するのも『beyond2020』の役割です」

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そして、講義の締めくくりに平田さんが触れたのが、「beyond2020」のこれからについて。

「東京オリンピック・パラリンピックは、日本の素晴らしさを世界に伝える絶好のチャンスでもあるのではないでしょうか。2020年を契機として、日本の文化がさらに発展していくことを、文化に関わるみなさんに実感していただくということが、私たちのひとつの目標です。より豊かな社会の実現に貢献するために、これからの4年間、『beyond2020』と『カルチャーカレンダー』づくりを、みなさんと一緒になって進めていきたいと考えています」

  • 平田 竹男

    内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局長/1960年、大阪生まれ。横浜国立大学経営学部卒業、ハーバード大学 J.F.ケネディスクール行政学修士、東京大学工学博士。
    1982年、通商産業省(現経済産業省)入省。1991年には外務省在ブラジル国日本国大使館一等書記官を務める。1995年大臣官房 総務課 法令審査委員を務め、1997年通商政策局、2000年資源エネルギー庁を経て、2002年財団法人日本サッカー協会 専務理事に就任し、日韓ワールドカップの開催に貢献した。2006年から早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科教授に就任。
    2013年より内閣官房参与、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局長を務める。