第16回「VRが変えるアート・コンテンツ・ビジネス」座談会

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現実と区別がつかないVRを実現するために、何が必要か?

4人の座談会はさらに続きます。「人間のセンサーの解像度に機械が追いつけば、現実とつくられたものの区別がなくなる」と杉山さんが言えば、藤井さんは「網膜の解像度ではなく脳の解像度。視界は全部脳がつくっている世界だから」と発言。一方で落合さんは、漠然と見ているときの“解像度感”はすでに達成しつつあると感じているそう。さらに水口さんからは、こんな意外な発言も飛び出しました。

「僕は、VRが早く終わればいいと思っているんです。まだ始まったばかりだし、やっていかないと次に行けません。でも、個人的には今のVRが本命ではないんです。たとえばゲームでもエンタテインメントでも、完全にデバイスで視界を塞いでしまいますよね。そうすると世界から分離されたように感じる。だから、このデバイスで塞がれた視界が開けた瞬間、世の中が変わるんじゃないかと思っています」

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Vチューバー、音の仮想現実、多人数同時体験……。最新VR作品が勢揃い

座談会のあとは「VRクリエイティブアワード2018」のファイナリスト作品の紹介が行われました。今回のCVMに登壇した4名はアワードの審査員も務めており、すべての作品を体験済み。それぞれの作品に対しコメントを添えていきます。なお、翌日のアワードでは、CGキャラクターとなってYouTubeなどで動画配信をする、通称「Vチューバー」のためのプラットフォーム「バーチャルキャスト」(株式会社バーチャルキャスト/山口直樹さん)と「VRM-3D avatar file format for VR」(株式会社バーチャルキャスト/岩城進之介さん)が最優秀賞を受賞しました。

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さまざまな作品が紹介される中、特に注目を集めたのが「hearing things #Metronome」(See by Your Ears/evalaさん)。暗闇の中、無響空間における「音」だけでVRを体験する“耳で視る”サウンドアートで、落合さんは「音の解像度がすごく高い作品。メトロノームの音が反響していろいろな音が聞こえ、ビジュアルが浮かぶんです」と解説。「体験する人によって違う景色が浮かぶところがすごい」「音に想像力が引っ張られる、今までにない体験」と藤井さんや水口さんも高く評価していました。

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もうひとつ、「ABAL:DINOSAUR」(株式会社ABAL/尾小山良哉さん)という作品の紹介では、4名それぞれのコメントが飛び交いました。どんな作品かというと……。

「恐竜時代にタイムスリップするんですよね。最大6人でその世界に入る。参加者同士でハイタッチもできるし、みんなでいかだに乗って川を下って恐竜に遭遇して。最後がじーんとくるんだよね。夕日をみんなで見る感じ」(水口さん)

「もしこの作品がひとりでしか体験できなかったら、『うーん』で終わってしまうと思う。6人が同時に体験できるからこそ楽しい。VRではソーシャルの要素がこれからどんどん増えるでしょうね」(藤井さん)

「ディズニーランドに行っている高校生たちの現実の解像度は、ちょうどこのくらいだろうなと思いました。つるつるしていて、あまり深いところまで立ち入らない感じ。これくらいの雰囲気なら、もうVRで感じられる」(落合さん)

「こういうVR表現でのストーリーテリングはかなり頑張ってつくられはじめています。VR空間で好きなようにストーリーを追うのは、映画とはまったく違う体験。解像度をあまり気にせず、十分物語が楽しめるんです」(杉山さん)

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VRを考えることは、世界の捉え方を考えること

次第に4人は「解像度」をキーワードに、未来のVR像を語り始めます。欧米と日本での感情表現の違いがVRの表現にも違いを生み出していること、技術的にはもう少しで現実の光景をVRで再生できるようになり、通信技術の進歩によって体験がリアルタイムで共有できることになること、医療など一部の分野が現実から切り離されてVR産業として成立するであろうこと……。そして最後は、杉山さんのこんな言葉で締めくくられました。

「今、これだけVRが注目されているのは、技術がキャッチアップしてきているから。本当にもうちょっとで、リアルとデジタルの区別がつかないくらいの解像度が実現されるところまできています。たとえば写真は、我々が実際に見ているものよりもすでに解像度が高い。そう考えていくと、人間自体がVRのシステムだと考えることもできます。自分が現実をどれくらいの解像度で見ているのか。それを意識すると、世界の捉え方も変わっていくのではないでしょうか」

 

  • 杉山 知之

    デジタルハリウッド大学 学長/工学博士
    1954年東京都生まれ。87年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年 日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月 デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同大学・大学院・スクールの学長を務めている。2011年9月、上海音楽学院(中国)との 合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の学院長に就任。VRコンソーシアム理事、ロケーションベースVR協会監事、超教育協会評議員を務め、また福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議会長、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員など多くの委員を歴任。99年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。
    著書は「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)、「クリエイター・スピリットとは何か?」※最新刊(ちくまプリマー新書)ほか。

  • 藤井 直敬

    デジタルハリウッド大学大学院専任教授、株式会社ハコスコ代表取締役、VRコンソーシアム代表理事
    医学博士、眼科医、神経科学者、起業家、アーティスト
    1965年広島生まれ、東北大学医学部卒
    東北大学病院眼科、マサチューセッツ工科大学での勤務を経て、2004年から2017年、理化学研究所で適応知性研究チームを主宰。2014年創業のハコスコでのVR事業経営と並行し、VR領域における啓蒙活動を行う。2018年よりデジタルハリウッド大学大学院専任教授

  • 水口 哲也

    エンハンス代表/エッジ・オブ Co-founder & CCO/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授
    共感覚的アプローチでデジタル系エンタテインメントの創作活動を続けている。2001年、映像と音を融合させたゲーム「Rez」を発表。その後、音と光のパズル「ルミネス」(2004)、キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Childof Eden」(2010)、RezのVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)など、独創性の高いゲーム作品を制作し続け、「全感覚の融合」をいち早く世の中に提示してきた”VR研究・実践のパイオニア”でもある。2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、2006年米国プロデューサー協会(PGA)より「Digital 50」(世界のデジタル・イノヴェイター50人)の1人に選出。2017年米国The Game Award最優秀VR賞受賞。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査主査、日本賞審査員、芸術選奨選考審査員、VRコンソーシアム理事などを歴任。

  • 落合 陽一

    筑波大学 学長補佐・准教授/デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表
    1987年生まれ。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学学長補佐・准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。ピクシーダストテクノロジーズCEO。2015年米国WTNよりWorld Technology Award、2016年Ars ElectronicaよりPrix Ars Electronica、EU(ヨーロッパ連合)よりSTARTS Prizeなど国内外で受賞多数。著書に『デジタルネイチャー』(PLANETS)、『日本再興戦略』(幻冬舎Newspicks)など。個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」,「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」,「落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」(東京表参道,2018)」など。