イベントレポート 【CVJ×新経済連盟】挑戦しつづける力 -アナザーエナジー展 世界の女性アーティスト16人から考える-

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2021年7月1日(木)にカルチャー・ヴィジョン・ジャパン(CVJ)、新経済連盟の共催で「挑戦しつづける力 -アナザーエナジー展 世界の女性アーティスト16人から考える-」のオンラインイベントが開催されました。
イベントタイトルにもある森美術館で開催中の企画展「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」(9月26日〈日〉まで)。そのキーワードとなる「アナザーエナジー」とは、人を突き動かす特別な力、挑戦し続ける力を指します。
イベントでは、学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事の小林りん氏、AI CROSS 代表取締役社長の原田典子氏の二人の女性経営者、そして森美術館の館長であり「アナザーエナジー展」をキュレーションした片岡真実氏の3人をお迎えし、それぞれのアナザーエナジーをお話しいただくなかで、企業におけるSDGsの実践、ダイバーシティ推進のヒントを探りました。
このレポートでは片岡氏による展覧会解題につづいて行われた、3人の座談の様子をダイジェストでお届けします。

 

17歳の時に出会った、不均衡な社会

片岡
まずは小林さんから自己紹介も兼ねて、なぜ学校を作ったのかの経緯をお話しいただけますでしょうか。
 
小林
私たちは軽井沢の山の上で、世界の80ヵ国以上から生徒が集まる全寮制の高等学校を運営しています。私は東京都下の多摩ニュータウンで育ち、小中高1まで日本の学校に行っていました。高校1年の時に、大学受験に重きを置きすぎる日本の教育に疑問を感じ、たまたま教室の片隅に貼ってあった奨学金制度を頼りに、単身カナダに留学をしたのが、私の初めての挑戦でした。
留学先では隣の部屋の子がメキシコ人で仲良くなり、彼女が高2と高3の間の夏休みに私を国に呼んでくれたんです。これが原体験に繋がりました。
メキシコで出会ったのは、圧倒的な貧困と格差でした。その友人の生活自体もそうですけど、彼女に連れられて行ったスラム街の光景は今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。日本に生まれて当たり前と思ってきたこと、それが世界の沢山の人にとっては当たり前じゃないんだと痛烈に感じました。こういう機会の不均衡に楔を打ちこむ人間になりたいと使命感を持ったのが17歳の時です。
そこからはや30年がたち、34歳からは今の学校づくりに挑んでいるんですが、「アナザーエナジー展」では90歳くらいからまた芽が出たアーティストもいましたね。まだまだ折り返し地点だと思って頑張っています。
 
片岡
カルメン・ヘレラ、1915年生まれで今回出展したなかで最高齢のいま106歳のアーティストですね。「バスを待っていれば来る、という話があるでしょ。私は1世紀も待っちゃったわよ。でもバスは来たのよね」と言っていて印象的でした。今日のテーマのダイバーシティでいえば、小林さんの学校はインターナショナルスクールで、多国籍の生徒が集まることが特徴ですね。

片岡様04

小林
来年度は84の国々から200人の高校生が入学します。教員も生徒も沢山外国人はいるんですけどそれだけではなくて、生徒のバックグラウンドにもダイバーシティがあることが大きなポイントかと思います。
ダイバーシティというと経済界ではジェンダーのみに思われがちですが、そうじゃないと思うんです。
 
片岡
ジェンダーも人種も国籍も、年齢もそう。要素はさまざまですね。
 
小林
学校を通して見えるのは、宗教観や歴史観、あるいは社会経済格差。色々な違いが渦巻いているのが現実社会と思います。非常に複雑な価値観のぶつかり合いで、世界は分断の最中にあります。なので、今こそダイバーシティ、「自分の当たり前が当たり前じゃない人」が目の前に現れた時に、それを否定あるいは攻撃するのではなくて、「その視点面白いね」とか「そんなことがあり得るんだ」と、それを逆にパワーとして変えていけるような視点を持てる人の育成が喫緊の課題と考えています。

小林様03
 

役員の半分が女性。多国籍な人材の雇用

片岡
原田さんにも、自己紹介とダイバーシティについてのお考えをお聞きしていいですか。
 
原田
私は小中高とドイツにおりまして、特に高校はベルリンの壁が崩壊する時期にインターナショナルスクールに行きました。インターナショナルスクールではマイノリティの日本人である肩身の狭さを経験するんですけど、一方で、その当時日本企業がどんどんヨーロッパに進出していて、勤勉さや真面目さといった日本人の美点を再発見し、改めて自分のアイデンティティが確立された時代でした。
渡米後、アメリカで10年ほどスタートアップ企業に勤め、その傍らで起業します。クリスティーズでワインスペシャリストとして活躍する方と、私と、韓国人の友人の3人で事業を起こします。よくケンカもしましたが(笑)全然違った個性が集まって、ひとりではできない大きな事業を成功させる良い経験をしました。
その後に日本に帰ってくるんですけど、勤めた企業が、朝8時に企業理念を唱和して9時から18時までその場にいないといけない環境で……。当時は子どもを抱えて仕事をしていたので、ここでは働けないなと今の会社を起業しました。
「Smart Work, Smart Life(スマートワーク、スマートライフ)」を企業理念に、私のような時間がなくて働きにくい環境の方でもテクノロジーの力で結果を出していく、そうすることによって日本の労働人口減少の問題を解決していくことを目指しています。
 
片岡
原田さんの会社では女性を積極的に登用されているのですよね。
 
原田
ダイバーシティには表面的/表層的なジェンダー、国籍などのダイバーシティと、深層的なダイバーシティがあると思っています。
表層的なダイバーシティでいうと、弊社は役員の半分が女性で、これは全国の上場企業でも2位に入る比率の高さです。あとは、派遣、副業、業務委託など色々な雇用形態を通じてパキスタンの方や中国の方、韓国の方、多くの国籍の方を積極採用しています。
 
片岡
もうひとつの「深層的なダイバーシティ」は内面の多様性ですか。
 
原田
はい。100問くらいのアンケートに答えていただくとその方の内面の性格やスキルが可視化され、それをデータ分析するサービスを行っています。その分析によってどういう方が自社に合うのか、AIのサジェスチョンで、こういう人が入ればチームが強くなるとか、今まで結果を出していたのはこういうタイプだからこういう方を配属させたほうがいいといった情報を提供しています。
私自身がダイバーシティにおいて一番大事だと感じていることが、自己肯定感、自分をまず認めことです。私の経験として、色々な人種のなかにマイノリティとして入った時に、自分が嫌でコンプレックスを抱えていた時がありました。その時はどうしても他人のことも認められないんですね。自分が何者かを受け入れて、自分の良い所も悪い所も分かってそれを可視化して、それによって相手の良い所をリスペクトしていく。こういったプロセスを弊社のサービスを通じてサポートすることで、生産性の高い良い組織を作ることに貢献していきたいと思っています。

原田様04
 

  • 片岡 真実

    森美術館 館長
    https://www.mori.art.museum/
    ニッセイ基礎研究所都市開発部研究員、東京オペラシティアートギャラリー・チーフキュレーターを経て、2003年より森美術館。2020年より現職。2007~2009年はヘイワード・ギャラリー(ロンドン)にて、インターナショナル・キュレーターを兼務。第9回光州ビエンナーレ(2012年)共同芸術監督、第21回シドニー・ビエンナーレ(2018年)芸術監督、国際芸術祭「あいち2022」芸術監督。2014年からCIMAM(国際美術館会議)理事を務め、2020年より会長(~2022年)。ICOM(国際博物館会議)日本委員会理事、全国美術館会議理事、文化庁アートプラットフォーム事業・日本現代アート委員会座長、第8期東京芸術文化評議員、AICA(美術評論家連盟)会員。京都芸術大学大学院客員教授、東京藝術大学客員教授。その他、日本及びアジアの現代アートを中心に執筆・講演等多数。
    /写真:伊藤彰紀

  • 小林 りん

    学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン 代表理事
    https://uwcisak.jp/
    経団連から全額奨学金をうけて、カナダの全寮制高校に留学中、メキシコで圧倒的な貧困を目の当たりにする。その原体験から、大学では開発経済を学び、UNICEFプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在。ストリートチルドレンの非公式教育に携わるうち、リーダーシップ教育の必要性を痛感する。帰国後、6年の準備期間を経て、2014年に軽井沢で全寮制国際高校を開校。2017年には世界で17校目となるユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)へ加盟し、ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンへ改名。同校は80カ国以上から集まる生徒の7割に奨学金を給付している。1998年東京大学経済学部卒。2005年スタンフォード大学教育学部修士課程修了。12年世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ」選出。19年Ernst& Young「EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2019ジャパン 大賞」受賞。

  • 原田 典子

    AI CROSS株式会社 代表取締役社長
    https://aicross.co.jp/overview/
    1974年、福岡県生まれ。幼少期をドイツで過ごした経験から大学卒業後はドイツ系ソフトウェア企業へ入社。テクニカルコンサルタントとして働いた後、システム開発ベンチャー企業へ転職。同社アメリカ法人設立のために2000年に渡米し、シアトル、サンノゼ、ニューヨークなどで10年ほどアメリカのネットビジネス、ITトレンドの調査及び提携・アライアンス業務などに幅広く携わる。出産を機に帰国し、2015年3月、同事業部を子会社化して代表取締役に就任。2019年10月には東証マザーズ上場、1%しかいないと言われる上場企業女性社⾧に。また役員男女比率は50%を超え、日本で2番目に女性比率の高い組織にも昨年ランクインされた。労働環境のスマート化やダイバーシティ推進の加速化にも積極的に取り組む。