第11回 第2部「ジャポニスム2018の企画概要」講演会

2017年2月14日(火)に行なわれた「カルチャー・ヴィジョン・ミーティング」。第2部では、2018年にフランスで開催される日本文化の魅力を発信するプロジェクト「ジャポニスム2018」をテーマに、ジャポニスム2018総合推進会議総括主査と「日本の美」総合プロジェクト懇談会座長を務める俳優の津川雅彦さん、ジャポニスム2018総合推進会議主査で、独立行政法人国際交流基金理事長の安藤裕康さんによる講演が行われました。内容は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの機運醸成や訪日外国人観光客の拡大にもつながる、実施に向けたさまざまな動きが進んでいる現状と課題について。まずは津川さんによる講演からどうぞ。

_MTB2066

2018年は日仏友好160周年であり
明治維新から150年目となる節目の年

「考古学の権威である小林達雄先生は、文化は腹の足しにはならない、しかし、心の足しになると仰っています。僕も、文化とは『心を動かすもの』だと思います。また、中曽根康弘元総理は『政治の究極の目的は文化に奉仕するにあり』と言っています。ただし、現在の文化庁の予算は世界に比べて非常に少ないのが現状です」

_MTA4454

日本の「文明開化」がはじまったのは、明治維新。以来、日本は世界有数の文明国、経済大国となりました。しかし、同時に江戸に栄えた文化を廃退させ、廃仏毀釈運動によって貴重な寺や仏像が打ち壊されたという一面があります。

「日本のシンボルは、ご存じのように桜です。桜は儚さをイメージする人が多いかもしれませんが、僕は、桜に力強さを感じます。毎年春の訪れを告げるために満開の花をエネルギッシュに咲かせ、最後はあでやかに散っていくことで、次なる緑の夏をもたらしてくれるのです。日本の美しさも、むしろ、たくましい美しさとして認識するべきではないでしょうか。東日本大震災でも、世界の人々が我慢、忍耐、礼節といった被災者の心に接し、実は物ではなく心こそが幸せをもたらすものだと感じたのだと思います。私は今こそ、文化のパワーによって国民の誇りを取り戻すときだと思っています」

_MTB2116

異物を取り込む日本のたくましい文化を
発信する「ジャポニスム2018」

「ジャポニスム2018」という名称は、19世紀中頃のパリの万国博覧会出品をきっかけに浮世絵や琳派などの日本美術が注目され、ゴッホやゴーギャンなど西洋の作家たちに大きな影響を与えたことに由来しています。それが日本で最初の世界的な文化発信であることから、このプロジェクト名が付けられたそうです。

_MTA4425

「ジャポニスム2018のテーマは『ふたつでひとつ』です。なぜなら日本は縄文の昔から、大自然に生きとし生ける全てに命が宿り神が宿る、そしてその命は、生と死と云う2つで成り立っていると云う自然崇拝の文化を育んできました。縄文人のあのめくるめく装飾された『火焔土器』を見てもわかるように、日本の美意識は多様なものから吸収して成り立っています。たとえば現代でも、インドから来たはずのビーフカレーは日本独自の料理となっています。日本は漢字をはじめあらゆる言語を取り入れてきました。異物を混在させ、日本独特の文化にしていくというたくましさこそが日本の個性なのです。そういう意味を込めた『ふたつ以上でひとつ』という日本の美意識を、ジャポニスム2018で発信させていきたいと思っています」

2018年6月からの約9ヶ月間 あらゆる面から日本文化に光を当てる」

  • 津川 雅彦

    1940年1月2日、京都府出身。5才で阪東妻三郎主演の『狐の呉れた赤ん坊』(1945)に映画初出演。1956年『狂った果実』で津川雅彦として正式デビュー。『マノン』(1981)でブルーリボン助演男優賞を初受賞、『マルサの女』(1987)で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞するなど、数々の伊丹十三作品で強烈な存在感を示した。その後、『別れぬ理由』(1987)で毎日映画コンクール主演男優賞受賞、『プライド 運命の瞬間』(1998)で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞するなど日本映画界を牽引する俳優として活躍。近年の映画出演作に『一枚のハガキ』(2011)、『0.5ミリ』(2014)、『後妻業の女』(2016)など。テレビドラマ出演作に『大岡越前』(2013~)、『銀二貫』(2014)、『戦艦武蔵』(2016)などがある。また映画監督、マキノ雅彦として、『寝ずの番』(2006)、『次郎長三国志』(2008)、『旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ』(2009)がある。Photo : Nakajima Yosuke (smooth inc)

  • 安藤 裕康

    1944年生まれ。1970年に東京大学を卒業後、外務省に入省。外交官として米国、フィリピンや英国での勤務を経て、内閣総理大臣秘書官、在米国日本大使館公使(特命全権)、中東アフリカ局長、在ニューヨーク総領事(大使)、内閣官房副長官補、駐イタリア特命全権大使等を歴任。2011年10月より、国際交流基金理事長として、外国との文化交流に取り組んでいる。