2019年度 文化庁 文化経済戦略推進事業 実施

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調査・支援事業等

UPDATE : 2020.07.09

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CVJは、産官学・アーティスト・クリエイターが垣根を越えて共に活動するプラットフォームとして、様々な形で「文化×経済」をテーマにした活動に取り組んでまいりました。
2019年度には、文化庁から委託を受け「文化経済戦略推進事業※」を実施いたしました。

※本事業は、文化芸術への経済活動を通じた投資から創出された価値が文化芸術に再投資される「文化と経済の好循環」の実現に向け、文産官の議論の場から生まれた、特に文化芸術の社会的・経済的価値を増大させる可能性が高いテーマを選定し、先行的に実証実験を行い、本格実施に向けた課題把握や効果検証等を行うものです。

文化経済戦略推進事業 事業内容

(1)文化×経済の動向と背景の調査、経済界有識者への文化×経済事例のヒアリング調査

「文化と経済の好循環」の実現に向け、企業活動における文化×経済の試みの多様な事例の中から、特に注目したい5つの動向を取り上げ、その実例とともに調査しました。また、「文化×経済」というテーマのもと、自社における具体的な取り組みから経営にかかわる視座までをトピックに、経済界の有識者5名に聞き取り調査を実施し報告書にまとめました。事例検証・インタビューのいずれを通じても共通して言えることは、1)リーダー(多くの場合経営者であるが)の一見親和性がないように見えるアートの要素を経営に取り込むのだという強い意志、2)各企業の経年(10年以上)の試行錯誤が必要だということでした。

(2)文化を源泉としたビジネス課題解決及びコミュニティを創出する
  「Culture Thinking Tour」の実証事業

経営者層を美術館に招聘し、文化芸術の理解を深めるための鑑賞と交流の機会を設け、「文化を切り口としたコミュニケーションによるビジネスの創出」につながる可能性を探りました。具体的には、企業経営者が美術館にて、作品鑑賞やアート思考を学ぶツアーを体験。その後、共創関係の構築を目指し、様々な業界のトップが懇親会の場で文化を核に意見交換を行いました。
本事業では、短・中期的には、「美術と経済の接点を作り、美術鑑賞体験への理解を深めてもらい、リフレッシュしてもらうとともに、刺激を得てもらうこと、さらには経営者同士や美術専門家との交流の中で、美術館の活用方法やビジネスへの活かし方の気づきを得てもらうこと」などを目標とし、これらについては、事後の調査から達成が示唆される結果となりました。一方で、長期的目標「具体的な事業(美術館での企業向けプログラムや、新規ビジネスやアイデア)が生まれ、文化芸術への協賛や投資が増え、経済界と美術館の継続的コミュニティが生まれる」ことを達成するためには、事後的なフォローアップが必要なことがわかりました。

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実証事業の様子

今回は、東京国立近代美術館と、森美術館という性質の異なる二館において、それぞれの特徴を象徴する前者「鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開」、後者「未来と芸術展」という二つの展覧会にてのCulture Thinking Tourを開催しました。経済同友会「スポーツとアートの産業化委員会」を通して声がけをしたところ、短期間で定員を上回る申し込みがあり、様々な分野の経営者が各回20~30名集って活発な意見交換が行われました。

■Culture Thinking Tour 第一回

2019年12月3日 東京国立近代美術館 鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開&所蔵作品展
解説者:大谷省吾 美術課長 参加者数:30人
大谷美術課長より、前半は、所蔵作品展示を見ながら、東京国立近代美術館の概要、東京国立近代美術館が実施する特徴的なプログラム「対話鑑賞」の説明等がありました。その後、「鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開」展示室へ移動し、ハイライト作品の鑑賞を終えた後、テーブルディスカッションの形式で意見交換を行いました。
主に、「ビジネス側がアート側に何を提供できるのか」「美術館経営について」「美術館にもっと来場したくなるには、どのようなサービスが必要か」について、アイデアが多く出されました。

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■Culture Thing Tour 第二回

2019年12月16日 森美術館 未来と芸術展: AI 、ロボット、都市、生命 人は明日どう生きるか 特別鑑賞会
解説者:南條史生館長 参加者数:23名
南條館長による、従来の美術の範疇におさまらない、様々な作品についての解説を聞きながらツアー形式で展覧会を鑑賞しました。様々なテクノロジーを用いた作品も多く、鑑賞者の関心がありそうなところについて、特に丁寧に解説いただいたうえ、一部アーティスト本人からの作品解説も加わり、現代アート展ならではの体験となりました。ツアー後の意見交換は、参加者全員が順に「文化×経済」や本企画について意見や感想を言う形で進行し、随時、南條館長からのフィードバックもあり、充実した対話の場となりました。

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(3)アーティストとの交流が企業にもたらす好影響を創出する
  「Artist in the Office」の実証事業

アーティストが企業内で作品の滞在制作やワークショップを行い、企業人がアーティストとのコミュニケーション・作品を通じて新たな刺激を受けたり、アート思考を学ぶことによって、ビジネスに好影響が出る可能性を探りました(例:創造性、クリエイティブ力の強化)。社員を対象としたアンケート調査・担当者のヒアリング調査を行い、本事業の効果と今後に向けた課題を報告書にまとめました。

本事業では、短期的には、「ビジネスマンが本アート企画を楽しみ、アートへの理解・関心を深め、さらにはリフレッシュやコミュニケーションの改善などにつながること」を、中期的には、「ビジネスマンが刺激を得て、視野が広がり、自社事業や業務を見直すことにつながること、アーティストの表現が良い影響をうけること」を期待しており、これらの目標については、事後の調査から達成が示唆される結果となりました。一方で、アートとビジネスのコラボレーションが起き、企業内にアートプログラムの価値が浸透し、事業として位置づけられ、さらに新しい事業等が生まれるには、フォローアップや継続的なプログラム実施などが必要だとわかりました。

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実証事業の様子

今回は、野村ホールディングス株式会社、三菱地所株式会社の2社で実施いたしました。

■野村ホールディングス株式会社
大手町と日本橋の2つの本社ビルにて異なるタイプのアート施策を実施しました。
大手町では、企業として掲げる「変革と挑戦」をテーマに、作家が企画を練り、社員や外部の方が来社する際に使用する会議室が並ぶ無機質な空間を、社員とのワークショップを通して制作した作品を通じて温かみのある豊かな空間に変容させる企画を実施しました。
日本橋では、社員が頻繁に通る、石を多用した重厚な歴史ある空間に、新素材等で制作したモビールタイプの作品を設置し、鑑賞体験イベントを通して社員とのアートを切り口とした交流を図りました。

野村ホールディングス関連情報ページ
https://www.nomuraartaward.com/jp/artist_in_the_office.html

1.大手町本社 
田中紗樹氏による共同制作ワークショップ「旅するアートの作り方」と公開制作

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アートワークショップ

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左2枚:社員の制作した作品の一部を利用して大型作品を制作  右:完成作品展示

田中紗樹
1984年、米国カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ、東京在住。2006年女子美術大学 絵画科洋画専攻卒業。米国で生まれ香港に住んだ幼少期の経験から、さまざまな土地や文化に興味を持つ。アトリエでの制作や作品発表のほか、旅先に絵を残す「stay&work」プロジェクトを続ける。生活×旅×制作を織り交ぜ、土地から得るパワーや色を大切にしている。幼いころから続ける書道の影響により、間の取り方、余白のバランス・リズム、大胆な筆致が作品の特徴。http://www.sakitanaka.jp

2.日本橋本社
小松宏誠氏による社員向け鑑賞ワークショップとモビール作品「Air Line」本社内展示

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作品展示

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左:対話型鑑賞イベント  右:アーティストトーク

小松宏誠
1981年徳島県生まれ。東京芸術大学大学院修了後、アーティストグループ「アトリエオモヤ」のメンバーとして活動を開始。2014 年に独立。「浮遊」への興味から「鳥」や「羽根」をテーマとした作品を続ける。その経験を生かし「軽さ」「動き」「光」をキーワードに、自然が持つテクノロジーと人間の生み出したテクノロジーが交錯する表現を追求。これまでに、第10回文化庁メディア芸術祭 審査員推薦作品(2006)、DSA日本空間デザイン賞 優秀賞(2015)、レッド・ドット・デザイン賞コミュニケーション部門(2016)などを受賞。
http://kosei-komatsu.com/

■三菱地所株式会社
多くの社員・来訪者が利用する本社カフェテリアで、アーティスト 力石咲氏が約3週間の滞在制作を行い、アーティストと企業の交流を通じて、双方がインスピレーションを得るモデルを模索しました。特に、企業、従業員自らが主体的に創造活動を実践することを促すような、企業価値の向上に資するプロジェクトを目指しました。

力石咲
編み物をコミュニケーションメディアとして捉え、街や空間に関与するインスタレーションやプロジェクトを展開。
http://www.muknit.com/

Ⅰ.滞在制作
三菱地所・グループ社員が多く訪れるカフェテリアにて約3週間の滞在制作

Ⅱ.ワークショップ(社員対象)
 1. ニット・ア・ラ・モード
   筒状のニットに廃プラスチックを詰め込みオブジェを制作するワークショップ。
   社員がつくったオブジェは後日カフェテリア天井より吊す形で展示。 
 2. ニットとプラスチックのシャンデリア
   ニットを編むワークショップ。カフェテリアの中心に展示する大型作品の一部を制作。

Ⅲ.南條史生・力石咲 トークイベント
『これからの時代の新しい創造性を育む日本のリーディングカンパニーとして、文化と経済が相乗効果を発揮するためにどのような取り組みが有効的か』 をテーマに、社員を対象としたトークイベントを開催。

Ⅳ.カフェテリア展示・イベント
滞在制作とワークショップを通して制作した作品をカフェテリアに展示。空間を大きく変容させると共に、当日社員の参加により、作品の様子が変容する仕掛けを施したり、カフェテリアでのコラボメニューを展開。

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左:滞在制作(作家&社員)  右:ワークショップ(作家&社員)

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ワークショップ(作家&社員)

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左:展示風景(ワークショップ制作作品)  右:展示風景

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左:トークイベント  右:トークイベント交流会(作家&社員)

    

今後もCVJは、本事業を通して得られた学びを活かし、 「文化」と「経済」の好循環を生み出す活動に取り組んでまいります。