第18回「ダイバーシティを加速させる/アート×ダイバーシティ」

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「相手の立場に立つ」ことが世の中を変える力になる

「以前、インバウンド向けの施策を検討する会合に出席したら、海外の人がひとりもいなかったんですよ。またあるときは、SDGsについて語る会合なのに、飲み物がペットボトル。もはや何をしたいのかわからない(笑)。だから、今回、この場に“歩くダイバーシティ”であるスプツニ子!さんがいることはすごく重要なことだと思っています」

3名のプレゼンテーションのあとは、クロストークの時間。まずは小西さんからスプツニ子!さんに、「日本のダイバーシティを巡る状況の中でおかしいと感じることは?」と質問、それに対する答えは、「日本の大学は、学問を発展させたいと言うわりには、自分と似た考えの人ばかり教員に採用している」というもの。一方、小橋さんは、そもそも多様な人と触れ合う機会が少ないのではないかと話します。

「たとえば街なかで見かけた車椅子の人をサポートしたいと思っても、余計なお世話だと言われるんじゃないかと思うと話しかけられないという人もいます。それって、たとえば障害を持った子どものクラスが分けられてしまうように、知りたくても知ることができない状況にあるからなのかもしれません。本来的にはみんな同じで、森羅万象を区別しないような精神を日本人は持っているはずなのに、もったいないなって思いますね」

さらに、小西さんから「ダイバーシティのためのアクション、何から始めればいいですか?」という質問が。スプツニ子!さんは「すごく簡単な方法がある」と次のように話しました。

「今、東京でたくさんの未来やテクノロジーに関する会議が開催されています。そのメンバーが偏っていないか、3秒でもいいから見ることですね。以前、あるテクノロジーフェスに呼ばれたときは、51人中48人が日本人男性だったんです。私はそれを知って、主催者に次回開催するときはなるべく男女半々になるようにしてくださいと、50人分の女性のクリエイターとかテクノロジスト、イノベーターのリストを送ったんですよ(笑)。調べていないだけで、これだけいるんですよって」

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そして、小西さんからふたりへの質問「ダイバーシティのために必要なことは?」に対して、「フェスのような、ある種のお祭り感」と答えたのは小橋さん。

「音楽フェスには、知っているアーティストをきっかけに入っていくと、次々と新しいアーティストやジャンルとの出会いが生まれて、そこから自分の生き方や感覚が変わってくるという体験があるんです。同じように、多様な人たちと街なかで多様な体験ができるとダイバーシティへの理解も変わってくるのかもしれません。スプツニ子!さんの生理マシーンもそうですし、ジェンダーを変えるような体験や、車椅子に乗ってみる体験とかも、見ているだけでは得られない理解が生まれるのではないでしょうか」

「コピーライティングの極意って、『相手の立場に立つ』ことだけ。それはぜひやってほしい」と小西さん。また、スプツニ子!さんは「人の立場を理解できるようになることは、変革のための大切なパワーになる」と話しました。

「共感するとか、違う立場の人を理解することがダイバーシティの本質です。私と同世代で活躍しているアーティストや起業家を見ていると、母子家庭で貧しかったとか、在日韓国人で差別されたとか、そういう経験を乗り越えている人がいます。彼らは既存の社会システムがおかしいんじゃないかという直感を持っている。世界をより良くしようと思っている人が多いなと思うんですよ。だからこそ、辛い思いをしていること、そしてそこに共感することが、世の中を変えるためのエネルギーになると思うんです」

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両極を知ることで、本当の自分の姿が見えてくる

講演会の最後には、質疑応答の時間も設けられました。参加者からいくつかの質問が飛び交った中、印象的だったやりとりをご紹介します。まずは地方で画業を営んでいる方から、「インターネットは、すでに知っている情報が入ってくる仕組みになっているため、視野が狭くなりがち。どう回避すればいいのか?」という質問。小橋さんは、次のように回答しました。

「仏教に『中道』という言葉があります。両極を知ることで本当の道がわかるというような意味ですが、いつものコミュニティからの情報って、あくまでひとつの極でしかないですよね。それが反対側の極にいくと、自分の意見がまるで変わったりします。それを繰り返すうちに、本当の自分が見つかると感じていて。だから、常に触れている情報だけでは怖いので、できるだけ自分が想定してない反対側に触れることを心がけているんです。インドに旅行に行ったり、自分が苦手な人の話を聞いたり。対話していく中で、自分の中心が変わっていくと思うんです」

スプツニ子!さんも、同じようにインターネットだけでは得られない情報のために旅をすることが多いと語り、また、小西さんも「真逆」を体験するよう心がけていると話しました。

「ある音楽プロデューサーに『コニタン(小西さんの愛称)は偏っているのよ』って言われたんです。『私なんか、男に振られたら真逆の人と付き合うって決めているからもうフラフラなのよ、コニタンもフラフラになりなさいよ』って(笑)。それからフラフラになることが僕のテーマ。こっちが好きだと思ったら真逆にいくということを一生懸命やっています。そんなことをやっていると、インターネットだけに頼れなくなってくる。小橋さん、スプツニ子!さんと同じですね」

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そして最後の質問は、「『ダイバーシティ』をあらためて日本語に訳すとしたら、どんな言葉になるのか」というもの。コピーライターを本職とする小西さんがこの質問を受け止めて、今回の講演会は幕を閉じました。

「『多様性』という名詞よりも、活動するために動詞化した方がいいなとは思っていたんですが、今、頭の中に知恵が1ミクロンもありません(笑)。これはぜひ、今後の課題とさせてください。そしていつか、日本のダイバーシティはここが起点でしたねと言われるようになると素敵だなと思いました。小橋さん、スプツニ子!さん、今日はありがとうございました」

 

  • 小橋 賢児

    LeaR株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター
    1979年東京都生まれ。88年に俳優としてデビューし、NHK朝の連続テレビ小説『ちゅらさん』など数多くの人気ドラマに出演。2007年に芸能活動を休止。世界中を旅しながらインスパイアを受け映画やイベント製作を始める。12年、長編映画「DON'T STOP!」で映画監督デビュー。同映画がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティアワードとSKIPシティDシネマプロジェクトをW受賞。また『ULTRA JAPAN』のクリエイティブディレクターや『STAR ISLAND』の総合プロデューサーを歴任。『STAR ISLAND』はシンガポール政府観光局後援のもと、シンガポールの国を代表するカウントダウンイベントとなった。
    また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会主催の東京2020 NIPPONフェスティバルのクリエイティブディレクターにも就任したり、キッズパークPuChuをプロデュースするなど世界規模のイベントや都市開発などの企画運営にも携わる。

  • スプツニ子!

    1985年東京都生まれ。東京藝術大学デザイン科准教授。
    ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学部を卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士課程を修了。2013年から4年間、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教としてデザイン・フィクション研究室を主宰。RCA在学中より、テクノロジーによって変化する社会を考察・議論するデザイン作品を制作。最近の主な展覧会に,「Cooper Hewitt デザイントリエンナーレ」(クーパーヒューイット、アメリカ)、「Broken Nature」(ミラノトリエンナーレ2019,イタリア)など。
    VOGUE JAPAN ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013受賞。2016年 第11回「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本特別賞」受賞。2017年 世界経済フォーラムの選ぶ若手リーダー代表「ヤング・グローバル・リーダー」、2019年TEDフェローに選出。著書に『はみだす力』。共著に『ネットで進化する人類』(伊藤穣一監修)など。
    Photo by Mami Arai

  • 小西 利行

    POOL inc./ファウンダー/コピーライター/クリエイティブ・ディレクター
    CM制作から企業ブランディング、商品開発、ホテルプロデュース、都市開発までを手がける。
    主な仕事に「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」、PlayStation4のCM制作、ラーメン店「一風堂」の海外ブランディングなどがある。さらに「プレミアムフライデー」「GO! CASHLESS 2020」「食かけるプロジェクト」など国家レベルのプロジェクも推進。2020年のドバイ国際博覧会日本館クリエイティブ・アドバイザーに就任した。また、日本最大のショッピングセンター「イオンレイクタウン」や京都「THE THOUSAND KYOTO」、立川の「GREEN SPRINGS」など都市開発のトータルクリエイションも行う。『伝わっているか?』(宣伝会議)『すごいメモ。』(かんき出版)を上梓。
    Photo by NORIAKI MIWA