第16回「VRが変えるアート・コンテンツ・ビジネス」座談会

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カルチャー・ヴィジョン・ミーティング(CVM)第16回のテーマは、近年急速に発展を遂げている先端技術「VR(ヴァーチャル・リアリティ)」。2018年8月25日(土)、カルチャー・ヴィジョン・ジャパンは、VRコンソーシアムとともに、渋谷区のEDGEofで「VRクリエイティブアワード2018」を開催しました。CVMが行われたのはその前日の8月24日(金)。VRコンソーシアム理事を務める杉山知之さん、藤井直敬さん、水口哲也さん、落合陽一さんが登壇し、旬のテーマを自由に語り合った座談会の様子をお届けします。

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「ヴァーチャル」と「リアリティ」、それぞれの言葉が示すもの

今回、モデレーターを務めたのは杉山知之さん。MITメディア・ラボ客員研究員を経て、デジタルクリエイターを育成する「デジタルハリウッド」を開校、現在は同大学・大学院・スクールの学長を務めています。座談会の始まりは、VRの歴史と定義から。1957年に開発された「Sensorama Machine」は、カラー映像が見られ、風や匂いも感じるし、座席も振動するVR装置の先駆け。1968年にはシースルー型のヘッドマウントディスプレイ(HMD)が登場と、VRには50年以上の歴史がある、と杉山さん。

「これまで何度かブームが起きては頓挫してきました。なぜ頓挫したかというと、『こうなるはず』という夢や考えに、実際の技術が追いつかなかったから。2016年に、ようやくVR元年といわれるようになりました。そのときに、言葉の意味を明確にしようということになったんです。言葉としては『仮想現実』という日本語が定着していますが、『ヴァーチャル』の元々の意味は『物質としての形は違うけど、効果は同じ』ということなんですね。たとえば仮想通貨は、物質としての形を持たないけれど、完全に通貨として機能しています。ヴァーチャル・リアリティという言葉も、つまり本物と同じような効果が得られるということなんです」

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2014年、ダンボール製の低価格HMD「ハコスコ」を発売し、日本におけるVR普及の火付け役となった藤井直敬さんは、株式会社ハコスコの代表取締役であり、理化学研究所脳科学総合研究センター適応知性研究チームリーダー。杉山さんが「ヴァーチャル」の言葉の意味を語れば、藤井さんは「リアリティ」の意味を語ります。

「東京タワーの先端を触ったことがある人はいますか? 実は先端なんて存在しないんですよ、と言われたら反論できませんよね。触って存在を確かめない限りは。つまり僕らの現実って、『どう信じているか』で成り立っている。みんなに共通するひとつの現実しかないと思われがちですけど、一人ひとりのリアリティがあるというのが僕の立場です。世界はあくまで主観的なもの。だから隙間がたくさんあって、そこを操作すればどんなことでも可能になるというのが、僕のテクノロジーを使った仕事における考えです。今後、多くの人がVRを体験していく中で、いかにもろい現実認識の上に生きているかを思い知るはずです。そしてその後、主観的な世界とテクノロジーがぴったり合った“新しい現実”ができあがっていく。そこにワクワクしますね」

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テクノロジーが支える「現実」の、現在と未来

「気づけば28年もこの世界にいます。こんなに長くやっているのは、体験をつくることが面白いから」と話すのは、水口哲也さん。ゲームクリエイターとして「スペースチャンネル5」や「Rez」「ルミネス」など音楽とゲームが融合した新しい作品を生み出し、メディアアートの祭典「アルス・エレクトロニカ」で栄誉賞を受賞するなど、世界的にも高い評価を得ています。そんな水口さんが口にしたのは、VRに欠かせない「デバイス」について。

「昔のゲームは2Dで、画質もすごく低かったんです。ここに至るまでに結局これくらい時間がかかってしまった。現在のVR技術も、体験すると驚くけれど、結局は3Dでつくられた世界なんだとわかってしまいます。でも、AR(オーグメンテッド・リアリティ、拡張現実)やMR(ミックスド・リアリティ、複合現実)のように現実と仮想現実を複合させて、解像度も計算速度も上がっていくと、何が現実で何が仮想現実か、だんだんわからなくなっていく。いずれ普通の生活の中に溶け込むデバイスが普及すると思います。僕は10年後に、スマートフォンをみんなが使っているイメージがまったく持てなくて。そうなったときに、いろんなものを共有しあうことになるだろうなと思います」

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メディアアーティストとしても研究者としても活躍する落合陽一さんは、著書『デジタルネイチャー』で書いたエピソードを例に、現代における機械と自然が融合した現実認識について語りました。その世界観は、デバイスを通して現実以上に現実らしい世界を体験するVRと共通するもの。

「本の前書きで、濃霧の中、妻がカーナビだけを見て運転する話を書いたんです。妻が運転する姿を見て、デジタルに対する信頼度がそんなに高いんだなと思うわけですよ。彼女にとっての現実は、人工衛星から出る電波信号とカーナビのデータベースに接続されている。20年くらい前まではカーナビはまだ不正確でしたが、今では生命を預けるのに値するほどリアリティが高いんです。それは非常に奇妙なことだけれど、東京では食べログがなければ目的のお店にもたどりつけません。僕らにとっては、目で見ている認識よりも、スマートフォンのほうがはるかにリアリティがある。デジタルネイチャーって、未来ではなく、今の話なんです」

現実と区別がつかないVRを実現するために、何が必要か?

  • 杉山 知之

    デジタルハリウッド大学 学長/工学博士
    1954年東京都生まれ。87年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年 日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月 デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同大学・大学院・スクールの学長を務めている。2011年9月、上海音楽学院(中国)との 合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の学院長に就任。VRコンソーシアム理事、ロケーションベースVR協会監事、超教育協会評議員を務め、また福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議会長、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員など多くの委員を歴任。99年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。
    著書は「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)、「クリエイター・スピリットとは何か?」※最新刊(ちくまプリマー新書)ほか。

  • 藤井 直敬

    デジタルハリウッド大学大学院専任教授、株式会社ハコスコ代表取締役、VRコンソーシアム代表理事
    医学博士、眼科医、神経科学者、起業家、アーティスト
    1965年広島生まれ、東北大学医学部卒
    東北大学病院眼科、マサチューセッツ工科大学での勤務を経て、2004年から2017年、理化学研究所で適応知性研究チームを主宰。2014年創業のハコスコでのVR事業経営と並行し、VR領域における啓蒙活動を行う。2018年よりデジタルハリウッド大学大学院専任教授

  • 水口 哲也

    エンハンス代表/エッジ・オブ Co-founder & CCO/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授
    共感覚的アプローチでデジタル系エンタテインメントの創作活動を続けている。2001年、映像と音を融合させたゲーム「Rez」を発表。その後、音と光のパズル「ルミネス」(2004)、キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Childof Eden」(2010)、RezのVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)など、独創性の高いゲーム作品を制作し続け、「全感覚の融合」をいち早く世の中に提示してきた”VR研究・実践のパイオニア”でもある。2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、2006年米国プロデューサー協会(PGA)より「Digital 50」(世界のデジタル・イノヴェイター50人)の1人に選出。2017年米国The Game Award最優秀VR賞受賞。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査主査、日本賞審査員、芸術選奨選考審査員、VRコンソーシアム理事などを歴任。

  • 落合 陽一

    筑波大学 学長補佐・准教授/デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表
    1987年生まれ。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学学長補佐・准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。ピクシーダストテクノロジーズCEO。2015年米国WTNよりWorld Technology Award、2016年Ars ElectronicaよりPrix Ars Electronica、EU(ヨーロッパ連合)よりSTARTS Prizeなど国内外で受賞多数。著書に『デジタルネイチャー』(PLANETS)、『日本再興戦略』(幻冬舎Newspicks)など。個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」,「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」,「落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」(東京表参道,2018)」など。