第12回 第2部「日本のコンテンツ産業の行方」対談

2017年5月22日(月)、表参道のスパイラルホールで開催された第11回「カルチャー・ヴィジョン・ミーティング」。第1部の原研哉さんの講演に続いて、第2部では、モバイル・インターネットの先駆け「iモード」の生みの親として知られる夏野剛さんと、「君の名は。」「世界から猫が消えたなら」などのヒット作で知られる映画プロデューサー・小説家の川村元気さんの対談が行われました。キーワードは、ふたりの共通点である「コンテンツ産業」。海外との対比から見えてくる日本の現状、目指すべき未来や課題について語り合いました。

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現代人はものすごく複雑なレイヤーの中で生きている

2016年8月に公開され、日本国内での大ヒットはもとより、全世界の興行収入が470億円を超えた新海誠監督の「君の名は。」。川村さんがプロデューサーとして参加したアニメーション映画です。対談は、その製作秘話からスタートしました。

夏野:この作品は、川村さんがプロデューサーとして入っておられますが、どういうところを心がけてつくられた映画なのでしょうか?

川村:今、僕らはものすごく複雑なレイヤーの中で生活していますよね。昔はお茶の間でテレビを観るくらいだったのが、現代ではテレビをつけながらスマホをいじって、ユーチューブを見ながらラインをやったりツイッターをやったり。

夏野:インターネットの登場以来、そういう傾向が強まっていますね。

川村:ウェブブラウザも、気づくと20ページくらいは開いているのが普通ですよね。生活のあらゆることが同時進行している、だから映画もなるべく複雑な、ひとことでは言い表せないものをつくりたいなとは思っていました。

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夏野:たしかに一度観ただけではわからない部分も多かったですね。

川村:現実世界がこんなに複雑になっているのに、エンターテインメントをシンプルな構造でつくっても通用しないと思って、わざとわかりにくくしたところもあります。

夏野:なるほど。最初の30分なんて、何が起きているのかついていけませんでした(笑)。だからこそ、多くの人に受け入れられたわけですね。日本人ですらわかりにくいものが、外国人にも受けたというのはすごいことですよね。

川村:テーマ的な意味では、レイヤーを4層くらい設けているんです。そのどれが引っかかったかは、日本、欧米、アジアでそれぞれ違うのではないかと思います。

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日本的なままで、グローバルに深い共感を得る

夏野:実写ではなくアニメーションということもヒットした理由ではあるのですか?

川村:アニメーションの良さは、たとえば子どもが成長する10年を一瞬で表現できるということ。実写なら10年間カメラで追わないといけませんから。「君の名は。」でいえば、電車に乗ってすれちがいざまに男女の目が合うシーンがそう。実写ではあの感覚を表現するのは難しい。

夏野:あのシーンって、東京に住んでいる人にはなんとなくわかるけれど、逆に言えば、日本人、しかも東京の人にしかわからないですよね。そういう意味で非常に日本的だと思います。

川村:僕たちが東京で感じている都市生活者の感覚は、北京でもニューヨークでも共感できるんじゃないか、と思っています。

夏野:グローバルに寄っていくのではなく、逆に日本的なものをどんどん出していくことで、もっと深いところでの共感が期待できると感じました。もしかしたら、上辺だけのマーケティングはもうやめたほうがいいかもしれないですよね。

ヒットとは、集合的無意識を呼び覚ますこと

  • 夏野 剛

    カドカワ、トランスコスモス、セガサミーホールディングス、ぴあ、グリー、DLE、U-NEXT、日本オラクルなどの取締役を兼任。
    経産省産業構造審議会臨時委員。スマホの先駆けとなる携帯「iモード」サービスを1999年にドコモより立ち上げ、
    ビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の一人に選ばれる。
    現在は、慶應大学で教鞭をとる傍ら、上場企業の取締役を兼任、フジテレビ「とくダネ!」などのテレビ番組のコメンテーターも務める。
    経産省や内閣府では、各種委員会のブレーンとしても活躍する。

  • 川村 元気

    映画プロデューサー・小説家

    1979年生まれ。『告白』『モテキ』『君の名は。』『怒り』などの映画を製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌2011年には「藤本賞」を史上最年少で受賞。映画『君の名は。』は、観客動員1,900万人、興行収入250億円を超える大ヒットとなる。さらに、2017年J・J・エイブラムスのプロデュースにてハリウッドにて実写映画化が決定し、当プロジェクトに日本人プロデューサーとしての参加が発表された。小説家としては140万部を突破した『世界から猫が消えたなら』のほか『億男』『四月になれば彼女は』などを発表している。